☆ポイント
・取引と便益との関係とは何か?
・国営と民営との関係とは何か?

◎取引
 ある地域は海に面していないため漁業資源に乏しく、代わりに石油の産出量が多い。
 他方、別の地域は石油の産出量が少ないが、漁業資源が豊富である。
 このような例であれば、漁業資源と石油資源との取引が自発的に行われ、効率的に双方に便益を与えると考えられる。
 これは、その1で述べた自発的交換そのものである。
 取引はそのまま経済関係を表しているとも言える。
 例えば、労働サービスを提供し、それに対して賃金を支払うという取引は、そのまま労働者と雇用者という関係を表していると言えるし、得た賃金を財と交換するのであれば、それはそのまま買い手と売り手という関係を表していると言える。

◎取引と主観的な感情
 しかし、自発的交換が双方に便益を与えるということは、いつでも両者が幸福になるということを保証するものではないのである。
 自発的交換の定義においては、両者が財を交換することを選択したのであれば、両者は少なくとも財を交換しない状態よりも、したほうが好ましい状態になると認めていると考えるのであるが、これは幸福になるべきという論理ではなく、経済学的にはあくまでも単にそのようなインセンティブがあるのであろうという話なのだ。

◎留保価格と余剰
 留保価格とは、売り手側であれば最低限その値段で売りたいという価格、買い手側であれば最大限支払ってもよいと思っている価格のことで、余剰とは、留保価格と実際に支払った金額との差額であり、取引からの利益を意味している。
 例えば、100円以上なら売ってもよいと考える売り手と、最大200円まで支払ってもよいという買い手の間で、140円で取引が行われたとする。
 このとき、売り手側の余剰=利益は40円であり、買い手側の余剰=利益は60円となる。
 さて、この場合は双方に便益があることはたしかであるが、その利益には40円と60円とで差がある。
 この事実はそのまま、交換によって双方に便益がもたらされたことはたしかであるが、双方が同じだけ幸福になったかと言われればそうではないということを表しているのである。

◎国営と民営
 経済的な意思決定を政府が行うような事業があるとき、その事業は国営化されていると言う。
 一般に政府には、市場経済における不平等を是正する役割があると考えられる。
 例えば、労働三法や公害法などの企業の暴走を抑えるための法律や、失業保険や障害者支援のようなセーフティネットの提供である。
 しかし、ソビエト連邦のように、経済に関する意思決定のほぼ全てを政府が行うような場合においては、個人や企業のインセンティブは失われると考えられる。
 例えば、賃金が一律に定められていれば一生懸命働こうというインセンティブは失われるし、所有権がなければ企業が利潤を大きくしようというインセンティブは失われるのである。
 これに対して、政府が事業を管理することをやめて、民間の企業に事業を売却することを民営化と言う。
 国営と民営との関係は、そのままインセンティブと平等のトレードオフの関係だと言える。

☆まとめ
・財の自発的交換は双方に便益を与える。
・双方に便益を与えることと、双方が幸福になることは同義ではない。
・余剰は留保価格と実際の取引価格との差額で、イコール利益である。
・国営と民営との関係はインセンティブと平等のトレードオフの関係を表している。

☆ポイント
・費用と便益のトレードオフとは何か?
・機会費用、サンクコスト、限界費用とは何か?

◎費用と便益
 選択を行うにあたっては、常に費用と便益との比較、つまりは獲得する便益と、そのために諦めなければならない費用とのトレードオフに直面する。
 ここで、予算制約線、時間制約線、生産可能性曲線上での経済活動においては、ある財を多く得ようとすると、他方の財を諦めなければならないという関係があったことを思い出そう。
 ある財を得るために支払うコストもそうであるが、ある財を得るために諦めた他方の財も費用であると言え、トレードオフの関係で費用を考えたとき、注目すべきは諦めるほうである。
 例えば、1000円の予算全てを使い切って200円のチョコレートと100円のアイスを買うとき、チョコレートを1個買うということは、アイスを2個諦めなければならないということに着目するのである。
 このとき、相対価格という概念を導入すると、チョコレートの値段はアイスの2倍であるから、チョコレートの相対価格は2である。
 この相対価格とは、一方の財を手に入れるとき、他の財をどれだけ諦める必要があるかを示す値になる。

◎機会費用
 大学進学についてかかる費用を考えてみよう。
 多くの人は、授業料や教材費こそが大学進学にかかる費用だと考えるだろうが、実際にはそれは完全な答えではない。
 ここで、大学進学にかかる費用とは、大学に行かない場合に使えるはずの時間と、その時間を使って得られるはずの所得を含めて、はじめて完全なものになる。
 この例のように、ある財を得るために諦めたお金と時間を合わせたものを、機会費用と呼ぶ。
 そして、機会費用の大きさとは、ある財を得るという選択をしないとき、それに代わる別の望ましい選択を行ったときのお金と時間の使い道そのものである。

◎サンクコスト
 ある選択を行ったとき、もうすでに支払いがされてしまい、回収不可能であるならば、その費用をサンクコストと呼ぶ。
 サンクコストは、合理的な企業や個人であれば無視をする支出である。
 1960年代、イギリスとフランスの航空会社が共同でコンコルドという超音速旅客機を開発していた。
 コンコルドには当初、その先進性から世界各国から注文が殺到したが、開発が進み問題点が浮き彫りになるにつれて、逆にキャンセルが相次ぐ事態となった。
 しかし、キャンセルが相次ぎ、大きな損失を出すことが確定的になったときにも、航空会社は開発をやめなかった。
 航空会社は開発にすでに投じてしまったコストを重視し、開発を中止してはその費用が無駄になってしまうと考えたのである。
 サンクコストを考えると、開発に投じてしまった回収不可能な費用を無視して、開発を中止して得られるお金と時間を使って他に何が得られるかを考えたほうが合理的なのであるが、実際にはそうはならなかったのである。
 このような錯誤を、コンコルドの名前をそのまま取ってコンコルド効果と呼ぶ。

◎限界費用
 限界費用とは、何かを行ったときに、それに加えて何かを行うための追加的な費用、つまりはオプションのことである。
 例えば、パソコンを買うための予算を考えるときには、パソコン本体のみの値段だけではなく、他のパーツ、例えば記憶媒体やソフトウェアも含めた費用と便益とを考えなければならないということである。
 ここで注意するべきは、パソコンの記憶容量を増やすために追加的な費用を支払うとすると、16GBから1GB増やす場合と、256GBから1GB増やす場合とでは、得られる便益は同じではないということである。 
 追加的に何かを1単位分行うとき、上の例だと記憶容量を1GB分増やすとき、そこから得られる便益を限界便益と呼ぶ。
 パソコンの例で言えば、記憶容量を増やすための費用と、記憶容量を増やすことで得られる便益とを、はかりにかけるということである。

☆まとめ
・人が何か選択を行うときには、常に費用と便益とのトレードオフに直面する。
・機会費用とは、選択にあたって諦めるお金と時間を合わせたものである。
・サンクコストは、回収不可能な費用であるから、合理的な選択を行うにあたっては無視される。
・限界費用と限界便益との限界的なトレードオフ関係も、経済学においては重視される。

☆ポイント
・機会集合とは何か?
・予算制約と時間制約とは何か?
・生産可能性とは何か?

◎機会集合
 経済学的な問題とは、何を得て何を諦めるかの選択そのものであると述べたが、このときの選択肢も無限に存在するわけではない。
 実行可能である選択肢の集まりを機会集合と言い、機会集合の要素がそれぞれどれほど望ましいかなどを調べることが、選択を分析するにあたって重要なことである。
 そして、機会集合の枠を決める、つまりは選択を制限するものが、次に述べる制約である。

◎予算制約
 選択を制限するもののうち、お金に関する制約を予算制約と呼ぶ。
 例えば、使えるお金が1000円あり、200円のチョコレートと100円のアイスのみを購入できるとした場合、可能な組み合わせは、チョコレート0~5個とアイス0~10個の間に限られる。
 具体的には、200X+100Y≦1000の範囲の整数点が機会集合である。
 最も多くの財を購入可能なのが、実際の選択が200X+100Y=1000の直線の上に乗っている場合であり、この直線よりも内側では使う金額にあまりが生じ、外側の点は選択することができない。
graph1

◎時間制約
 人間が1日に使いうる時間というものは、貧富の差に関わらず24時間しかない。
 例えば、1日のうちに何かしたいことが2つある場合、その人は常にX+Y≦24という範囲でトレードオフを迫られることになる。
 さて、予算制約も時間制約も機会集合を規定するという点で同じだが、個人の置かれている状況によってその比重は大きく変化する。
 単純に貧乏人であれば時間制約よりも予算制約のほうがより強い制約であると考えるだろうし、お金持ちであれば予算制約よりも時間制約のほうがより強い制約であると考えるだろう。

◎生産可能性
 上で挙げた2つの例は個人に関するものであったが、もっと大きな、例えば企業や社会全体の選択を規定するような制約は何であろうか?
 投入しうる土地の広さや労働力を固定したときに、企業や社会が生産しうる財の総量を、生産可能性と呼ぶ。
 例えば、企業がXとYという財の2つのみを生産しようとしているとき、その可能な組み合わせが下表のようであるとする。
graph2
 そして、この各点をプロットしたのが次のグラフである。

graph3
 このグラフの境界線が、生産可能な財の量の最大値であり、生産可能性曲線と呼ばれる。
 ここで、上に挙げた例と違うことは、境界が直線ではなく曲線であることである。
 個人の場合の制約を考える場合、例えば1000円の中から200円だけ使うような、固定的なトレードオフのみを考えればよかったが、一方でこの場合のトレードオフは、社会の生産能力などの固定的でない問題を含んでいる。
 具体的には、Xを生産するための資源は、グラフの例であれば400ぐらいまでは最適なものを用いることができるが、700から900、900から1000と値を大きくするにつれて、生産に最適でない資源、つまりはYを生産するための資源をXの生産に回さなければならなくなるため、伸びは鈍化していくのである。
 これは土地の場合を考えるとわかりやすいだろう。
 ある区画で米と小麦のみを生産するとき、Xを米、Yを小麦とすると、米の生産量を増やそうとしても、あるところまでは米の生産に最適な土地が使えることになるが、そこを超えてしまうと最適でない土地や、小麦を生産していた土地を水田に転用しなければならなくなるのである。
 このように、財を生産するための投入物を増やしたとき、その増加分が一定ではなく鈍化していくことを、収穫逓減の法則と呼ぶ。

☆まとめ
・個人や企業あるいは社会全体が選択に直面したとき、実行可能であるような選択肢の集まりを機会集合と呼ぶ。
・機会集合の枠を決める制限のうち、お金に関する制限を予算制約といい、時間に関する制限を時間制約と呼ぶ。
・企業や社会全体が生産しうる財の総量を生産可能性といい、この機会集合の境界線を生産可能性曲線と呼ぶ。
 このとき、生産するための投入物を増やしても、その生産量の増加が鈍化していくことを収穫逓減の法則と呼ぶ。

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