☆ポイント
・多角的取引とは何か?
・比較優位とは何か?
・保護貿易とは何か?

◎多角的取引
 今までの項で扱ってきた取引は、2者間での直接的な取引が主であった。
 しかし、2者間による取引に対して、3者以上による取引である、多角的取引のほうがより多くの利益をもたらすことがある。
 2018年度のジェトロ世界貿易投資報告を見てみよう。

 このページのサウジアラビアの項を見ると、サウジアラビアへの2018年度の輸出金額は約5兆円であるのに対し、輸入金額が約20兆円と大きな貿易赤字を出していることがわかる。
 輸入品目の中では、特に鉱物性燃料、つまり原油や天然ガスがほとんどを占めている。
 一方で、サウジアラビアはアメリカに対して、3兆円ほどの貿易赤字を出しており、アメリカからサウジアラビアへの主な輸出品目は、武器を含む機械製品や食料品である。
 アメリカの項を見ると、アメリカは日本に対して、7兆円以上もの貿易赤字を出していることがわかり、日本からアメリカへの主な輸出品目は、自動車や一般家電である。
 これらを総合すると、サウジアラビアは日本との貿易において貿易黒字を出し、アメリカはサウジアラビアとの貿易において貿易黒字を出し、日本はアメリカとの貿易において貿易黒字を出すという関係になっている。
 ここで、日本とサウジアラビアが輸出したいものと輸入したいものに着目すると、日本が輸出したいものは自動車や一般家電であり、輸入したいものは原油や天然ガスである一方、サウジアラビアが輸出したいものは原油や天然ガスであり、輸入したいものは武器や食料品であるから、日本が輸出したいものと、サウジアラビアが輸入したいものの間でミスマッチが生じることになる。
 しかし、日本とサウジアラビアとの間に、アメリカが挟まった場合、アメリカが日本から自動車や一般家電を輸入し、サウジアラビアへ武器や食料品を輸出するといった具合に、このミスマッチが上手く解消されるのである。
 このように、2者間では相互の利益が少ないように見える関係でも、3者以上の関係で見ればそれぞれが利益を得られているような場合があり、これが多角的取引の一例である。

◎比較優位
 上の例を眺めていると、「日本よりもアメリカのほうが機械製品の絶対的な生産効率は良いはずなのに、なぜアメリカは日本から機械製品を輸入するのか」という疑問が生まれるだろう。
 その疑問に対する答えが、比較優位という概念であり、アメリカよりも日本のほうが、相対的には機械製品を効率的に生産できるということなのである。
 この事実は、費用という観点から説明できる。
 つまり、アメリカが日本と同じような機械製品を製造したいとしたとき、同じ資源で他の財(例えば小麦などの農作物)を生産したほうが、アメリカ国内においてはより効率的になり、逆に日本国内においては、小麦などの財を生産するよりも、同じ資源で機械製品を生産したほうがより効率的になるという、トレードオフが生じるのである。
 この例では、アメリカは日本に対して機械製品の生産において絶対優位を持っているが、日本がアメリカに対して比較優位を持っていると言い、一般に各国は他国に対して比較優位を持っている財の生産に特化する。

◎保護貿易
 日本とアメリカの例で、あえて考慮に入れなかった物がある。
 それは、自国の産業の保護と関税という概念である。
 国がある産業に特化するということは、別のある産業を諦めるということと等価であるから、諦めたほうの産業においては規模の縮小や失業などが生じることになる。
 各国が比較優位を持つ財の自発的交換によって互いに利益を得るという考え方が自由貿易の基になっているが、それに対して自国産業の縮小や失業などのデメリットに対する緩和や保護を要請するのが保護貿易である。
 実際に貿易によって一時的にでも不利益を被る人々が、自らの産業の保護を要請することは、しばしば保護主義と呼ばれる。
 保護貿易においては、輸入品に関税をかけることでその財を相対的に高価にするという方法が主に取られ、実際日本国内での農業を維持するために、他国からの農作物の輸入に際して大きな関税をかけているという事実がある。

☆まとめ
・2者間での直接的な取引では思うような利益が得られない場合でも、3者以上による多角的取引によって利益を得られる場合がある。
・ある財を他に対して相対的に安価に生産できるとき、その財について比較優位を持っていると言い、一般に各国は比較優位を持っている財の生産に特化する。
・自由貿易は各国に利益をもたらすが、一方で自国の産業を保護するための保護貿易も政府は重視する。