カテゴリ: 入門経済学

しばらくは簡単な話が続きます。

☆ポイント
・経済学的な問題とは何か?
・トレードオフ、インセンティブ、交換、情報、分配とは何か?

◎経済学的な問題とは
 社会にある経済の担い手が、経済資源をどのように使うのかを研究するのが経済学である。
 ここでいう経済の担い手とは、個人、企業、政府といった人や組織そのものであり、経済資源とは、材料、労働力、時間といったものである。
 経済資源には希少性があること、つまりは有限であることに着目すると、例えば何かを作ることや、何かを実行するにあたって、他の何かを諦めるという選択が生じる。
 この、人や組織が経済資源を使って何かを行う、あるいは何かを諦めるという選択こそが、経済学的な問題である。

◎トレードオフ
 経済資源に希少性がある、つまりは経済資源が有限であるために、ある何かを実行するために、他の何かを諦めなければならないこと、それがトレードオフという概念である。
 例えば、5000円だけお金が使えるとき、4980円のゲームソフトを1本買ってしまえば同時に他のものは買えなくなるし、3時間だけ余暇があるとき、1本2時間の映画を2本鑑賞することは不可能であるから、どちらかの視聴を諦める必要がある。

◎インセンティブ
 人や組織が選択肢の比較を行う際の、その選択の望ましさをインセンティブと呼ぶ。
 例えば、同等の品質で価格が低いものは、当然インセンティブが高いと言える。
 もっと例を挙げれば、店舗の立地や、ある時点での資源の価格なども、インセンティブに影響を与える。

◎交換
 経済というものは、1人の意思決定のみで行われるものではなく、多数の意思決定によって成り立っている。
 両方の意思決定者が利益を得るために自発的に行われる財の交換を、自発的交換と呼ぶ。
 そして、財の交換を行う状況そのものを、経済学では市場と呼び、市場経済は自発的交換のうえで、経済資源が社会の中で効率的に使われることを保証する。
 例えば、商品と貨幣の交換が行われる状況は当然市場と呼ばれるし、直接的に物の交換が行われる状況も市場である。

◎情報
 選択にあたって、その選択が意思決定者にとってどれほど利益を得られるものであるかを判断するためには、情報が重要である。
 例えば、機械のスペックであれば、買い手はより性能の良いものを購入するインセンティブがあるため、売り手は自分の商品のスペックが高いことを買い手に伝えるインセンティブがあるといった具合である。

◎分配
 市場経済においては、生産された財が誰のためにどれだけ分配されるか、つまり所得も決定される。
 しかし、経済資源は希少であるから、市場の当事者たちの所得において、格差問題が発生することになる。
 それに対して、政府は当事者たちの公平性を高めるための政策を行うが、市場の効率性と公平性の間にもまたトレードオフ問題が生じる。
 例えば、生活保護の資金調達のために税金を上げることが、人々の労働意欲を低下させる、つまりインセンティブが低下するといった具合である。

☆まとめ
・経済的な問題とは、経済の当事者の選択そのものである。
・経済資源は希少であるため、何を得て何を諦めるかのトレードオフ問題が生じるが、それには選択肢の望ましさであるインセンティブの高低が重要になる。
→つまり、インセンティブに注目すれば、経済的な問題である選択を理解することができる。
・財の交換が行われる状況こそが市場であり、当事者たちがより効率的な交換を行うためには、情報をが重要である。
・市場経済は人々の所得を決定する一方、経済資源の希少さから当事者たちの間で格差が生じるため、政府がそれに対して公平性を高めるような政策を行うが、市場の効率性と公平性はトレードオフの関係にある。

☆ポイント
・生産物市場、労働市場、資本市場とは何か?
・ミクロ経済学、マクロ経済学とは何か?
・経済学における変数とモデルとは何か?

◎生産物市場
 企業がある財やサービス、つまりは生産物を個人(家計)に対して販売するとき、その市場を生産物市場と呼ぶ。
 また、企業が作った生産物を、他の企業の生産物の材料(生産材料、投入物)として販売するとき、例えば自動車部品会社が別の自動車会社に部品を販売するような場合も、生産物市場と呼ばれる。
 生産物市場において、家計は消費者になる。

◎労働市場
 企業が生産物をつくるための、労働サービスや機械を購入するとき、その市場を労働市場と呼ぶ。
 労働市場において、家計は労働者となる。

◎資本市場
 企業が生産物を作るための資金など、つまりは投入物を調達するとき、その市場を資本市場と呼ぶ。
 例として、企業が資金調達を行うのは、主に銀行からであるから、家計は銀行に預金するなどの形で介入することになる。
 資本市場において、家計は投資者となる。

◎ミクロ経済学
 ミクロ経済学が注目する対象は、企業、家計、個人といった、経済の構成要素たちそれぞれである。
 ミクロ経済学的な問題とは、それぞれの経済主体たちの選択そのものである。

◎マクロ経済学
 マクロ経済学が注目する対象は、経済の構成要素の集合体、つまりは経済全体の動きである。
 マクロ経済学的な問題とは、社会全体の経済成長や、為替レート、物価水準といった広い問題である。

◎経済における変数とモデル
 経済学が科学であるからには、何かを計測し、それを元に論理的に推論し、理論やモデルを作ることができるということである。
 経済学で計測するもの、つまり変数とは、物の価格、賃金、労働者数、利子率など全てである。
 計測した変数それぞれが相関関係や因果関係を持ち、互いに影響しあうと考えたとき、経済全体の性質を推論することができる。
 そして、何かの変数を動かしたとき、別の変数はどれだけ動くといったことが体系的に推論できるとき、それを経済学的なモデルと呼ぶことができる。

☆まとめ
・経済における主要な3つの市場として、生産物市場、労働市場、資本市場が存在し、個人や家計はそれらについて、消費者、労働者、投資者として関わっている。
・ミクロ経済学が注目するものは経済の構成要素であり、マクロ経済学が注目する対象はその構成要素の全体であり。
→つまり、ミクロ経済学とマクロ経済学は同じものを別の視点から眺めているのである。
・経済学においては、経済の要素を変数として計測し、それを元に仮説を立て、理論化やモデル化することできる。

☆ポイント
・実証経済学と規範経済学とは何か?
・基本的競争モデルとは何か?

◎実証経済学
 現実に起こっている経済の変化や政策について、その結果から物価などの量的な変化を述べたり、政策などの効果を予測するためのモデルを組み立てようとするのが実証経済学である。

◎規範経済学
 ある経済の状態に対して政策などの行動を実行するとき、それがどれほど望ましいかを判断するのが規範経済学である。
 つまりは、その政策などが及ぼす影響のメリットやデメリットを比較検討し、それを行うべきかどうかを実証的な予測に基づいて判断することを規範的という。

◎基本的競争モデル
 基本的競争モデルというのは、消費者は合理的に自分の利益を最大化する選択を行い、企業は合理的に利潤極大化を図り、さらに市場においてはそれぞれの消費者や企業が市場価格を受け入れる行動を取るようなモデルである。
→具体的には、
・合理的な消費者:消費者が常に自分たちの利益を最大にするような選択を行うと仮定するとき、そのような消費者を合理的であるという。
・合理的な企業:企業の場合も消費者と同様に、常に自分たちの利益(利潤)を最大にするような選択(営業)を行うと仮定するとき、そのような企業を合理的であるという。
・市場価格と価格受容者(プライス・テイカー):合理的な企業が自分たちの利潤を最大化しようと考えるとき、商品の値段を他社よりも引き上げることを考えるが、合理的な消費者も自分たちの利益を最大化しようと考えることから、他社よりも高額な商品を購入することはないため、結局のところそれぞれの企業は与えられた市場価格と同一の値段で売ることになる。
 一方、合理的な消費者が自分たちの利益を最大化しようと考えるとき、商品を他者よりも安く購入することを考えるが、合理的な企業も自分たちの利益を最大化しようと考えることから、現行価格よりも安く商品が売られることはなく、結局のところそれぞれの消費者は与えられた市場価格と同一の値段で買うことになる。
 このように、与えられた市場価格を受け入れるしかないような買い手や売り手を価格受容者(プライステイカー)と呼び、市場参加者が市場価格に影響を与えることができない状態を完全競争と呼ぶ。

☆まとめ
・実証経済学では、経済の状態から経済をモデル化し、規範経済学では、その予測に基づいてできる限り望ましい選択を判断する。
・基本的競争モデルは、合理的に自分たちの利益を最大化するように選択する個人と企業から成り、それらは完全競争市場において価格受容者的な行動を取る。

☆ポイント
・市場経済における基本的な要素:価格、利潤、所有権とは何か?
・価格システムと割当て制度の比較

◎価格
 価格は財の希少性に基づいた相対的な価値という情報を人々に与える。
 例えば、ダイヤはトイレットペーパーよりも希少であるから高額であるといった具合である。
 財が希少性に応じて市場経済において価格が付けられるとき、その財を購入してもよいと考える、最大限の支払い能力のある人々にその財がわたることが保証されるような分配の仕組みを、価格システムと呼ぶ。
 言い換えれば、消費者たちがある財を買いたいと考えるとき、その希少性から消費者間で競争が行われるから、そのような場合にはもっとも多くのお金を支払える人から分配されるということである。
 また、価格の高さは消費者が財をどのように評価しているかという情報を企業に与える。

◎利潤
 企業と消費者がともに合理的であるならば、企業は価格に反応して、少ない資源で効率的に財を生産することによって利潤を増加させようとする。
 例えば、石油が値上がりしたとき、つまりは石油が何らかの理由で希少になったとき、企業は石油製品を多く生産することで、より多くの利潤を得ようとするだろう。
 このように、企業がより多くの利潤を獲得するために、価格に反応するように動機付けられることを、利潤動機と呼ぶ。
 ただし、例の場合、企業は高額で多くの石油製品を売りたいと考えるのに対し、消費者は高額では多くの石油製品を買おうとは考えないことに注意すべきである。
 このことは、後で需要と供給の項で述べる。

◎所有権
 もし、所有権がなければ、企業や家計は自らの利潤や賃金を手に入れることができないため、より多くの利益をあげようとするインセンティブを失うことになる。
 損失についても同様で、企業や家計が損失を出してしまったとき、所有権がある場合にはその損失を自らが負担する必要があるため、企業や家計には損失をできるだけ避けようとするインセンティブが働くのである。
 財の所有者が自分の好きなようにその財を使うことができるならば、財の所有者には所有権があると言い、所有者が自由に使えるような財を私有財産と呼ぶ。
 
◎割当て制度
 人々が希少な財を交換によって欲しい量だけ手に入れることができない場合、その財を割当てられたと呼び、そのような分配の制度を割当て制度と呼ぶ。
 具体的には、待ち行列やくじ引きが割当て制度にあたり、それらは価格システムに対して、支払い能力のある人々から順に財が分配されないという非効率をもたらすことになる。

☆まとめ
・価格は消費者や企業に財の希少性に基づいた情報とインセンティブを与える。
・合理的な企業はより多くの利潤を得るために、価格に応じた効率的な商品の生産を行うインセンティブをもつ。
・私有財産とそれに付随する所有権があるとき、企業と家計は利益を求め、損失を避けるインセンティブがもたらされる。
ただし、これらのインセンティブが大きくなれば、利益と業績がより密接に結びつくことによる不平等が大きくなる。
 この関係はインセンティブ・平等のトレードオフと呼ばれる。
・価格システムは財を分配する1つの方法であるが、他の方法には割当て制度が存在する。

☆ポイント
・機会集合とは何か?
・予算制約と時間制約とは何か?
・生産可能性とは何か?

◎機会集合
 経済学的な問題とは、何を得て何を諦めるかの選択そのものであると述べたが、このときの選択肢も無限に存在するわけではない。
 実行可能である選択肢の集まりを機会集合と言い、機会集合の要素がそれぞれどれほど望ましいかなどを調べることが、選択を分析するにあたって重要なことである。
 そして、機会集合の枠を決める、つまりは選択を制限するものが、次に述べる制約である。

◎予算制約
 選択を制限するもののうち、お金に関する制約を予算制約と呼ぶ。
 例えば、使えるお金が1000円あり、200円のチョコレートと100円のアイスのみを購入できるとした場合、可能な組み合わせは、チョコレート0~5個とアイス0~10個の間に限られる。
 具体的には、200X+100Y≦1000の範囲の整数点が機会集合である。
 最も多くの財を購入可能なのが、実際の選択が200X+100Y=1000の直線の上に乗っている場合であり、この直線よりも内側では使う金額にあまりが生じ、外側の点は選択することができない。
graph1

◎時間制約
 人間が1日に使いうる時間というものは、貧富の差に関わらず24時間しかない。
 例えば、1日のうちに何かしたいことが2つある場合、その人は常にX+Y≦24という範囲でトレードオフを迫られることになる。
 さて、予算制約も時間制約も機会集合を規定するという点で同じだが、個人の置かれている状況によってその比重は大きく変化する。
 単純に貧乏人であれば時間制約よりも予算制約のほうがより強い制約であると考えるだろうし、お金持ちであれば予算制約よりも時間制約のほうがより強い制約であると考えるだろう。

◎生産可能性
 上で挙げた2つの例は個人に関するものであったが、もっと大きな、例えば企業や社会全体の選択を規定するような制約は何であろうか?
 投入しうる土地の広さや労働力を固定したときに、企業や社会が生産しうる財の総量を、生産可能性と呼ぶ。
 例えば、企業がXとYという財の2つのみを生産しようとしているとき、その可能な組み合わせが下表のようであるとする。
graph2
 そして、この各点をプロットしたのが次のグラフである。

graph3
 このグラフの境界線が、生産可能な財の量の最大値であり、生産可能性曲線と呼ばれる。
 ここで、上に挙げた例と違うことは、境界が直線ではなく曲線であることである。
 個人の場合の制約を考える場合、例えば1000円の中から200円だけ使うような、固定的なトレードオフのみを考えればよかったが、一方でこの場合のトレードオフは、社会の生産能力などの固定的でない問題を含んでいる。
 具体的には、Xを生産するための資源は、グラフの例であれば400ぐらいまでは最適なものを用いることができるが、700から900、900から1000と値を大きくするにつれて、生産に最適でない資源、つまりはYを生産するための資源をXの生産に回さなければならなくなるため、伸びは鈍化していくのである。
 これは土地の場合を考えるとわかりやすいだろう。
 ある区画で米と小麦のみを生産するとき、Xを米、Yを小麦とすると、米の生産量を増やそうとしても、あるところまでは米の生産に最適な土地が使えることになるが、そこを超えてしまうと最適でない土地や、小麦を生産していた土地を水田に転用しなければならなくなるのである。
 このように、財を生産するための投入物を増やしたとき、その増加分が一定ではなく鈍化していくことを、収穫逓減の法則と呼ぶ。

☆まとめ
・個人や企業あるいは社会全体が選択に直面したとき、実行可能であるような選択肢の集まりを機会集合と呼ぶ。
・機会集合の枠を決める制限のうち、お金に関する制限を予算制約といい、時間に関する制限を時間制約と呼ぶ。
・企業や社会全体が生産しうる財の総量を生産可能性といい、この機会集合の境界線を生産可能性曲線と呼ぶ。
 このとき、生産するための投入物を増やしても、その生産量の増加が鈍化していくことを収穫逓減の法則と呼ぶ。

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